日時:2025年11月29日(土)
10:30-12:00 トークイベント
ソーシャルデザイン展企画(一般公開)
詳細についてあらためてお知らせします。
13:00-14:00 研究発表1
エレン・ケイのデザイン思想–—自然らしさの理想をめぐって
池山加奈子(大阪大学大学院)
14:00-15:00 研究発表2
在日コリアンポスターにみるチマチョゴリの表象とその変遷
グ・ボンウ(大阪大学大学院)
15:30-17:00 役員会
大阪大学中之島センター3階スタジオ
〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53 https://www.onc.osaka-u.ac.jp/access/
当日の午後15時30分より役員会をハイブリッドで開催いたします。対面でご参加される場合は大阪大学中之島センター3階スタジオまでご参集ください。
本発表では、スウェーデンの教育思想家にして社会批評家であるエレン・ケイ(Ellen Key 1849-1926)のデザイン思想を、彼女の自然観に着目することを通じて明らかにする。エレン・ケイは、女性運動や子どもの教育に関する提言などで知られるが、国民の生活環境の美化にも取り組んだ。1899年のブックレット『すべての人に美を–— 4 つの文章』では、理想の社会における理想の美という観点から、労働者階級が家庭や日常の中でどのような美を持つべきかを説いている。
ケイのデザイン思想は次のように特徴づけられる。まず、昔ながらの農村部での暮らしやそこで作られる手工芸、スロイド(slöjd)を美しいと評価し、その伝統を踏まえた美の理想を唱えた。そして、自然やスロイドに接する中で育まれる趣味と倫理観を近代社会における人間形成の基盤として重視した。また、ケイは自然の合目的性に注目した。つまり、家具や日用品の過剰な装飾を批判し、自然界にある事物のように、ものはシンプルで表現力豊かな方法で目的に適った形をしているべきだと述べた。
ケイの著作は一般の人々にも広く読まれた。それは一定期間、非常に強い影響力を持ち、若い世代の建築家、デザイナー、デザイン理論家たちにその理想は引き継がれた。それらを通じ、ケイの思想は、シンプルで機能的な日用品を誰もが手に入れられるべきだという、スウェーデンの民主的なデザイン理念の礎を築いた。他方、今日では、彼女の言説を批判的に見る立場も存在する。それは、彼女の主張が、たとえ善意によるものであったとしても、権威的な立場からの趣味の陶冶という側面を持っていたという見方による。
これまでケイのデザイン思想は、福祉・教育的な側面に注目されることが多く、背後にある自然との関係性は十分に検討されてこなかった。本発表では、自然らしさの理想という観点から彼女の思想を再検討することを通じて、スウェーデンのモダンデザインの理念と造形の両方における、エレン・ケイの言説の意義を明らかにする。池山加奈子(大阪大学大学院)
本研究の目的は、戦後の在日コリアンが制作したポスターにおいて、「在日コリアンらしさ」がどのように表現されてきたのか、その変遷を明らかにすることである。ポスターは本来、広告のための媒体であるが、戦後の在日コリアン社会においては、共同体の人々が価値観や美意識を共有する視覚的メディアとして機能してきた。本研究では、とくに朝鮮の伝統衣装であるチマチョゴリの描かれ方に注目し、人物や背景などの造形要素を分析した上で、その表現の変遷を三つの段階に整理して検討する。
第一の段階は、戦後から1970年代にかけての「理想の再現」である。この時期のポスターには、華やかなチマチョゴリを着た若い女性が、非現実的で厳かな背景とともに描かれ、民族的理想像が提示された。第二の段階は、1980年代から1990年代にかけての「現実の再現」である。この時期には、地味な普段着を身にまとったお婆さんが、コリアンタウンなどの現実的な風景の中で描かれ、日常のリアリティが表現された。第三の段階は、1990年代以降の「自由な表現」であり、人物や背景が省略され、チマチョゴリのみが抽象的に描かれるなど、特定の意味づけよりも表現そのものの自由さが重視された。
このように、理想から現実、そして自由な表現へと至る変化は、在日コリアンが自らのアイデンティティを模索し、表現してきた過程を示している。この過程が描かれたポスターは単なる広告媒体ではなく、共同体における美的実践の場として機能し、「在日コリアンらしさ」の形成に寄与してきたと考えられる。グ・ボンウ(大阪大学大学院)