第231回 意匠学会研究例会 発表要旨

■ 戦後日本における屋根壁連続建築の発展についての研究
李海寧/神戸大学大学院工学研究科/建築学専攻

 屋根壁連続建築とは、屋根と壁が連続した構造体で構成される建築を指すものである。一般的に、床・屋根・ 壁・柱・開口部などは建築の不可欠な組成要素として考えられているが、1960年代以降は意匠表現などのため、意図的に屋根と壁を連続した構造体にする建築も現れ、その多くはその独特なフォルムで関心を寄せ付けてきた。しかし、屋根壁連続建築に焦点を当てた研究はまた少なく、この意匠によってどんな特徴や効果が得られるかは十分に研究されていない。その空白を埋めるため、本研究を行った。
 研究方法と研究対象については、まず屋根壁連続建築の明確の定義や、研究対象の選定基準を定めた。そして雑誌「新建築」掲載作品を中心に調査を行い、定めた基準によって事例総数3021例から、該当事例69件を選出した。全事例の年代、設計者、場所、構造、屋根壁の仕上げ材、用途、規模を一覧表にまとめ、さらに年代別、構造別などの分類や解析を行い、そこから屋根壁連続建築の変遷、特徴、メリットなどを分析した。
 調査によって、戦後日本では屋根壁連続建築の事例は1960年代に現れたことが分かった。屋根壁連続建築は年代によって以下の変遷が見られた。
 1960年代:主に池辺陽、川合健二の作品が見られる。当時の事例は実験的な住宅で、新しい住宅のあり方について試行錯誤によって生まれた一風変わった設計案である。
 1970-1980年代:この年代はモダニズムからポストモダンへシフトしていく時期でもあり、屋根壁連続建築でも従来の要素を意図的に打破する、新しい建築様式への模索が見られる作品が多い。
 1990-2000年代:90年代以降、アバンギャルドへの追求などの動きが現れ、特殊な意匠性を持つデザインが多く見られるようになった。また、事例数も一気に増えた。
 研究ではさらに用途と意匠の関係や、意匠を実現するための構造などについてデータ収集や分析を行った。屋根壁連続建築を意匠設計に取り入れる際の注意点やメリットを解明していくことで、今後の積極的な運用を促すことを期待している。