第227回 意匠学会研究例会 発表要旨

■ 1930年代少女雑誌のチョコレート広告にみる「少女」の表象
─雑誌『少女の友』における森永ミルクチョコレート広告をめぐって
前川 志織/京都工芸繊維大学美術工芸資料館

 洋菓子は明治維新以後ハイカラな舶来品として流入し、産業化の進展に伴い滋養によいものとして普及した。チョコレートはそのなかでも栄養価が高くカカオ豆の苦みにカフェインに似た微量の刺激を含むが、その大衆化は1918年に森永製菓株式会社(1889年創業)がカカオ豆からの一貫製造を手がけたことを契機とする。森永製菓はその市場拡大のため1920年代から30年代にかけて活発な広告活動を展開した。1934年から39年にかけて雑誌『少女の友』(1908年創刊)裏表紙に頻繁に掲載されたミルクチョコレートの広告はその一例で、そのなかには広告部デザイナー・今泉武治(1905-1995)と写真家・堀野正雄(1907-1998)が手がけたものが含まれる。
 本発表の目的は、『少女の友』裏表紙における一連の森永ミルクチョコレートの広告はどのような制作者の広告戦略にもとづきどのような少女を表象したか、少女雑誌の読者はその少女表象をどのように受容したかを考察することにある。
 広告における少女の表象について広告社会学やデザイン史では女性表象の研究があるが少女に限定したものはない。あるいは竹久夢二を代表とする挿絵研究および少女文化研究は少女表象を取り上げるが広告に注目するものは少ない。広告の受容のコンテクストについて広告社会学は女性の受け手をめぐる広告の受容空間を取り上げるが、少女に注目するものではない。
 これらの研究をふまえたうえで、上記の目的について以下の手順で考察する。まず婦人雑誌や少年雑誌の広告頁との比較から、少女雑誌における広告空間の特徴を検討する。次にコピー文章と図像の分析や少女雑誌の記事内容との比較をてがかりに、その広告戦略はチョコレートが大人に向けて若さ・新鮮さ・モダンをもたらすというメッセージを含んだこと、一連の広告には童画・抒情画・写真を組み合わせたデザイン表現がみられること、消費文化を象徴する女性像であるモダンガールに似た明るい女性像と抒情画の挿絵や口絵に似た物憂げな少女像が併存したことを確認する。最後に少女をめぐる社会的コンテクストなどをてがかりに、少女雑誌の読者である女子はこれらの広告における二種の女性像をみることでどのような欲望が喚起されたか―「消費者としての少女」が創出された可能性―を検討する。