第226回 意匠学会研究例会 発表要旨

■ 1960-70年代の日本の食文化の変遷 ―食の「保存」に関する技術と製品―
  塩見 耕平/大阪工業大学大学院

  本発表は、1960-70年代の高度経済成長期における日本の食文化の変遷をテーマとする。  この時期の日本の食の変化は、戦後GHQによってもたらされ、中でも「保存」技術の影響は強い。1968年に大塚食品工業(株)が発売した世界初の市販用レトルトカレー「ボンカレー」に代表されるレトルトパックは、本来アメリカの軍用食の長期間保存に利用されていた。また、アメリカですでに普及していた冷凍食品を、GHQが日本の料理人に調理させたことで、冷凍食品の調理・加工技術が浸透していくこととなった。  一方、1954年には学校給食法が施行されたことで集団向けの業務用冷凍食品が企業に意識されるようになる。その後、1964年の東京オリンピックでは、選手村で生活する選手に料理を提供するために冷凍食品が利用され、1970年の日本万国博覧会においては冷凍食品やレトルトパックを用いたファミリーレストランやセントラルキッチンでの調理が試験的に行われ、一般消費者や外国人観光客に認知されるようになった。このような経緯により、現在のファミリーレストランや居酒屋などの外食産業界が発展することとなる。流通に関しては、1963年に名神高速道路が開通し、1964年に東海道新幹線が開業した。そして、1965年に科学技術庁がコールドチェーン勧告を出したことで、全国への食品の安定的な配送が可能になった。  上記のような変化が連続的に起こり、それに伴って食品パッケージ、スーパーマーケット、システムキッチン、冷蔵庫や電子レンジなどの分野もまた年々変化していったのである。これらの食の「保存」についての発展と日本の食文化について発表する。



■ 新商品開発における集団的創造の問題と要因 〜目標設定背景の考察〜
  畔柳 加奈子/京都工芸繊維大学

 今日、企業におけるデザイナーの役割は、商品企画から販売促進まで、新商品開発全体へ広がっている。商品開発はデザイン活動そのものであり、様々な部門が協力して行う集団的創造と言える。しかし、多数の商品開発実績のある企業であっても、デザインが高く評価され、事業に貢献する商品を毎度必ず開発できるとは限らない。人材や開発環境において、同様な仕組み、同様なリソースで開発されているも関わらず、なぜ開発のたびに商品のデザイン評価や事業的効果には大きな差が生まれるのか。  デザインプロセスに関する研究は、大きく分類すると次の4つに分けられる。1、デザインのマネジメントや組織構造を対象とした、組織論、マーケティングからのアプローチ。2、開発プロセスや業務に焦点を当てた、プロジェクトからのアプローチ。3、デザイナー個人の発想や思考のプロセスに迫った‘個’からのアプローチ。4、心理や欲求など人間の根源的思考や情報処理の観点から普遍的な創造のプロセスを明らかにした‘人間’からのアプローチ。  本研究は、プロジェクトからのアプローチを基礎として、組織論やマーケティングの側面から考察を行った横断的な研究である。具体的には、グッドデザイン賞を受賞し、事業目標を達成した事例をプラス事例、グッドデザイン賞を受賞せず、事業目標を達成しなかった事例をマイナス事例と定義し、国内の家電メーカーで実際に行われた複数の事例について、開発者へのインタビューに基づいて開発プロセスの図式化と比較分析を行った。  分析の結果、商品開発目標の質が開発の成果に差を生じさせる要因であり、プラス事例とマイナス事例では、開発目標の内容と記述方法に違いがあることが分かった。また、開発目標の内容には目標設定に至る迄の開発ステップが影響しており、マイナス事例ではその一部が欠如していた。さらに、過去の研究を参照し、開発ステップの欠如の背景を考察した結果、構造的要因(ステージ・ゲートシステムのゲートの無効化)や、心理的要因(情報処理バイアスの作用)などが明らかになった。