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第205回意匠学会研究例会 発表要旨
■「蔵田周忠を中心としてみる東京高等工芸学校」 亀野 晶子/京都工芸繊維大学大学院
発表の目的は蔵田周忠が在任していた当時の東京高等工芸学校の状況を現在から 可能な限り明確にする事である。発表をふまえ最終的には日本の 住空間において、 日本の在来の文化に西欧文化がどのように組み込まれたか、または取って代わられ たか等の状況を、それを消費し、使用する側から解き明かす事を目的とする。その ための調査の上で重要な人物として蔵田周忠を挙げる。 蔵田周忠は1920年結成の分離派建築会のメンバーとして知られる建築家である。 しかし彼は建築家であると当時に建築ジャーネリズムの世界にも身を置き、多くの 著作物を残している。そして東京高等工芸学校の教師として、日本のインテリア史 の中で重要な位置を占める 型而工房の中心人物として、建築だけでなく室内意匠の 分野でも様々な影響を与えた人物である。其の蔵田周忠を軸としてみることで、西 欧文化受容の多様な側面を見る事が可能になると考える。 その中でも今回は蔵 田の東京高等工芸学校在任時の状況に焦点を当てる。東京高等工芸学校、京都高等 工芸学校は共に工芸という名のあるように、西欧文化と合理化が同義語であった時 代に「工芸」つまり日本の産業をよりよくする事を目的に開校された学校である。 京都高等工芸学校は京都工芸繊維大学の前身の一つであり、そこに日本にアール・ ヌーヴォーやウイーンセセッションの様式が実際にデザインとして広まるきっかけ があったと言われる事もある。同様に蔵田が教授として赴いた東京高等工芸学校に もデザインを巡る新しい考え方があったと考えられる。年代日本のインテリアに最 も関心を持った人物達と言われている木檜恕一、森谷延雄が東京高等工芸学校には いた。その中で蔵田はどのような役割を果たし、どのような思想をもつようになっ たのか、またどのような影響を与えたのか。それを探る事でその後の蔵田の活動の 真意を見つける事が出来ると考える。
■「抽象絵画と近代照明――S・ギーディオン、L・モホリ=ナギ、 G・ケペッシュ、R・バンハム、W・シヴェルブシュを手掛りに」 秋丸 知貴
近代照明は、抽象絵画にどのような影響を与えたのだろうか? 一九世紀以来、ガラス建築や人造光等の近代照明は、人間の知覚・視覚・意識等 を様々に変化させた。本発表は、そうした近代照明による心性の変容が、近代造形 における抽象主義に一体どのような感化を与えたのかを、ジークフリート・ギーデ ィオン『空間・時間・建築』、ラズロ・モホリ=ナギ『ニュー・ヴィジョン』『ヴ ィジョン・イン・モーション』、ギオルギー・ケペッシュ『視覚言語』『造形と科 学の新しい風景』、レイナー・バンハム『環境としての建築』、ヴォルフガング・ シヴェルブシュ『鉄道旅行の歴史』『闇をひらく光』『光と影のドラマトゥルギー』 等の諸論考を手掛りに考察する。 まず、鉄とガラスによるガラス建築は、天井や横壁を透明化することで、明るい 陽光を屋内に均一に全入させる。そのため屋内からは、従来の不均一な暗闇は駆逐 され、事物の陰翳に基づいて構成されていた閉鎖的で具体的な空間感覚は撹乱され る。また屋内の事物は、没骨的な没輪郭性を失い形態が明瞭化すると共に、奥行的 起伏性を喪失し形体が平板化する。 また、ガス灯や電灯等の人造光は、光源自体を天然光から解放することで、より 強力で一様な明光で空間を充満させる。それにより屋内は、さらに純粋で抽象的な 照明空間となり、事物の形や色は、一層明白かつ平坦に露呈されると共に、その規 則的偏光性により様々に変調される。そして屋外でも、その感覚刺激の強烈性は、 事物の外観にさらに多様な強調化・歪曲化を生起させる。 こうした近代照明による視覚的抽象作用の反映は、同時代の近代絵画には画派を 越えて幅広く観取できる。その事例を、クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、エド ゥアール・マネ、エドガー・ドガ、フィンセント・ファン・ゴッホ、ジョルジュ・ スーラ、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック、キース・ヴァン・ドンゲン、 アンリ・マティス、カルロ・カッラ、ウンベルト・ボッチョーニ、ジャコモ・バッ ラ、カジミール・マレーヴィチ、ミハイル・ラリオーノフ、ナターリヤ・ゴンチャ ローヴァ、ロベール・ドローネー、ソニア・ドローネー、ラウル・デュフィ、フェ ルナン・レジェ、ピート・モンドリアン等の作品や証言に基づき多角的に比較検証 する。